「さ、これでゆっくり話せるの。実は今回の事件とは別に、モモは五日ほど或る機関で身柄を拘束される予定だった」

「はい?」

 ──身柄を拘束って──?

「が、その前にあんな予告状が届いたお陰で、紛らわしくなるのもかなわんと思い、その機関に延期を打診しようとしていたのだが、どうも上手く連絡がつかなくての……」

「全く意味が分からないんですが……」

 宙に浮いていた湯呑みをテーブルに置き、屈んだままの姿勢で上目遣いの瞳を向ける。

 凪徒は少しイラついているようだった。

「まぁな、ちと国家機密レベルの話での。詳細はわしにも分からんし、口外出来ないこともあるんだが……ともかくモモは『S』の養成候補に選ばれて、そのテストを受けるためにここを離れているって訳だ」

「エス……?」

 国家機密だの養成候補だの、唐突な団長の言葉に戸惑いながらも問いかける。

 団長はそれを見て、ようやく核心に触れられることを喜ぶように、ニヤリと口髭の端を軽く上げた。

「『S』──つまり『スパイ』のことだよ、凪徒クン」

「はぁっ!?」

 突拍子もない三文字に、彼の端正な顔もさすがに歪んでいた──。