おそらくピエロの滑稽なパフォーマンスと思われて、誰にも疑われることなく犯人は確保されただろう。

 ──暮さんのお陰で何の事件とも思われず事なきを得たし、とにかく先輩が無事だった──

 モモは安堵の溜息を吐いて、テントに戻ろうと銃を拾うため腰を曲げた。

「お嬢さん、すみませんが化粧室はどちらになりますか?」

「え? あ、はい、それなら……」

 突然頭の上から中年男性の声が聞こえてきて、モモは少し先の黒い革靴に目を()めた。

 説明しようと背を伸ばしたその時──

「うっ……」

 首の後ろに衝撃が走り、目の前に星のような小さな光がチラチラと舞い散った。

 ──何? これ……──

「すまないね……少しだけお付き合いいただきますよ、『明日(あす)()』」

 頭上の声は次第に遠のいてゆく。

 気を失う寸前彼女が感じたのは草の青い匂いだった──。