サーカス自体もホームページやSNSでそれなりに宣伝をしているものの、個人宛の物は受け付けていないし、団員の誰かがプライベートで発信していることも多くはなかった。

 もちろん数週間から数ヶ月同じ地に滞在するのだから、アイドルと勘違いしているような足しげく通ってくれるファンも多少は存在するのだが──。

 ──本当はあたしのファンじゃなくて、先輩や夫人の崇拝者なんじゃないかしら?

 モモはそう思いながら目の前の幕をギュッと握り締めた。

 凪徒のファンならパートナーを務める自分にやっかむこともあるだろうし、実際デビュー前後の女性ファンの抗議は凄まじかった。

 もしくは夫人の演技を再び見たいという昔からのファンの可能性も……どちらにしても全ては自身の技術の向上で、何とか理解を得てきた筈だというのに──。

 ──考えても仕方ないか……。

 今はとにかくこれ以上観客の皆様とスタッフの皆に迷惑を掛けないこと。そして一刻も早く不審人物を見つけ出し確保すること。

 それしか自分の復帰する道がないことを、無理矢理心に言い聞かせる。

 まもなく始まる公演に向けて、モモはステージの向こうの客席を見渡した。



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