「それでも代役用に練習を続けているのは、彼女の凄いところだね。ただ、子供が出来たらもうやらないんじゃないかな。夫人もモモと同じでブランコが大好きだけど、守るべき者が出来たら完全にやめるって言ってたから」

「守るべき者……」

 モモは再び暮の温かな微笑みに目を向ける。

「ああ……余計なこと言っちゃったかな。モモはいいんだよ。今はそんなこと気にしないで。でも夫人もそうやって色んな気持ちの変化があったってこと。それを内に閉じ込めることはない。何か思うところがあったら相談しておいでね」

 ピエロはニッと真っ赤な分厚い唇を弓なりに持ち上げた。

 おもむろに立ち上がり、昨夜のように優美な挨拶を捧げて走り去ってしまった。

「内に閉じ込める……?」

 モモはもう一度夫人の舞を見上げた。

 ブランコから支柱の凪徒に飛び移り、胸に(いだ)かれてポーズを取った美しい笑顔は、あたかも満席の喝采を浴びているようだった──。