「あ……」

 強く握られていた腕がふっと解き放たれ、見上げた凪徒の顔が「あっちを見ろよ」と言いたそうに視線を遠くへ向ける。

 その先へ首を振るモモの視界に入ったのは、一面を埋め尽くす桜の花びらだった。

「わぁっ!」

 思わず目の前のフェンスまで走り寄り大声を上げていた。

 幾つかの街灯が川面(かわも)に光を落とし、白い花びらの浮かぶ(さま)を幻想的に映し出している。

 辺りが桜の木立(こだち)で覆われているせいか、余計に闇を黒々とさせているので、その真白い絨毯は一層輝いて見えた。

「ギリギリセーフってとこだな。昼間見たら、もう綺麗じゃないぞ、コレ」

 相変わらずロマンティストでないぼやきだ。──でも、やっぱり嫌いじゃない。

「ありがとうございます、先輩!」

 約束を忘れていなかっただけでも嬉しいのに、こんなプレゼントが待っていただなんて。

 モモは心からの喜びを表す満面の笑みを凪徒に向けたが、彼の表情は意外に冴えなかった。