凪徒と同様重ね着をしてくるように言われたモモは、それに従いコートを身に着け再び車外に出た。

「行くぞ」

「え? あ、先輩?」

 途端手首をむんずと(つか)まれ、足早の凪徒の歩調に強制的に付き合わされた。

 モモはしばらく小走りを余儀なくされたままサーカスの敷地を出て、車の行き交う道路端の坂を下った。

 大通りから路地に入って人通りがなくなると、やっと凪徒の歩みは(ゆる)やかになった。

「数日前の約束を忘れるなんて、お前はバカか?」

「えっ? あ、だって……」

 やがて辿(たど)り着く静まり返った並木道。

 あの大雨のせいで満開の桜はすっかり散ってしまっていた。

 等間隔で設置された街灯が照らすのは、既に芽吹き出した葉桜だけだ。

「いいから、来いよ」

 ──先輩?

 凪徒は並木の街道をモモの手首を掴んだままズンズンと降りていった。

 五分ほど進んで現れた四つ角を右に折れ、更に進んだ先のT字路を左折する。

 再び五分ほど歩いた先に現れたのは、同じく葉桜を左右に並べた小さな川だった。