「お別れの時だね」

「……はい」

 モモは厚みのある紳士の胸に頬を寄せ、両手を彼の背中に回した。

 高岡の腕もモモの細い背中を優しく包み込む。

「凪徒、いいのか~? 抱きつく相手が違うだろ」

 目の前の光景に驚いた暮が横目で見上げた凪徒の表情は、特に変わらないまま二人を見つめていた。

「違かねぇだろ。たった五日間でも、あのおっさんはモモの父親だったみたいだからな」

 そして自分の答えも出たことを思い出す。



 『モモに再会出来れば、おのずと答えは出るんじゃないか?』──団長が語った言葉。



 ついにモモを見つけた瞬間、(こぼ)れ出たのは『相棒』の二文字だった。

 凪徒はクスりと(ひそ)かに笑う。今はそれでいい──きっと『今』は。

「……まぁ、確かに」

 さらりと冷やかしをかわされた暮は暮で、花純と桔梗から聞かされた話を頭に巡らせ納得した。

「サーカスを見に行くよ。その時まで──」

「はい、お元気で。その時まで……」



 ──さようなら。



 こうして五日間に及んだモモの誘拐事件はついに終わりを告げた──。