「あの……」

 二人は遠慮がちに掛けられた背後からの声に振り返った。

 腰かけていた椅子から立ち上がった高岡は、凪徒ほどではないが背丈があり、がっしりとした身体が印象的な気品のある紳士だった。

「桜……なぎと君と言ったね? もしかして桜 隼人(はやと)氏のご子息ではないのかい? 昔彼には随分世話になって……ご自宅にもお邪魔したことがあるんだ」

 そう告げる高岡に向けられた凪徒の視線は一瞬揺らぎ、

「……ええ。ですが父とは随分前に縁を切っています。申し訳ないのですが、あの人には何も言わないでください」

 ──凪徒?

 突然の質問に微かに(かす)れた声で答えた凪徒は、一瞬別人のような雰囲気を表した。

 暮もまた自分ですら知らなかった彼の事情に驚いていた。

「──そうか。いや、そういうことなら……失礼したね」

「いえ」

 そう一言返し、三人はこの話を終わりにしようと再び喝采(かっさい)の一団を目に入れた。

 しばらく皆の興奮は治まらなかったが、全員が一様にモモへの歓待を終えたのだろう。

 やがて落ち着きを取り戻した真ん中から、もみくちゃにされながらも幸せそうなモモが現れて、高岡の元へ向かった。