「モモっ!!」

 今一度大声で呼びかけ走った。呼ばれた声に反応した少女の顔は、ちゃんとこちらを向いている。

 遠くからでも分かっていた。あれは──あいつだ。

「……先輩……?」

 呼ばれたモモも叫び近寄る相手の姿をしっかり目に入れていながら、今自分の置かれた状況が分からなくなった。

 ──どうして先輩がここに? それも何だかかなりおっかない形相をしてこちらに走ってきていない?

 凪徒は立ち尽くすモモの手前、腰かけた中年男性へ焦点を合わせた。

 ──あれが高岡社長か? そしてあれが──。

「このぉっ、スパイ増殖マシーンがっっ……!!」

「な、なに、なに?」

 驚くほどの速さで駆け寄る凪徒の右拳が振り上げられたのを見て、モモは咄嗟(とっさ)に紳士の前に立ちはだかった。

 明らかに凪徒の目標は高岡だ。

 ──でも聞こえた“スパイ”って? “マシーン”って?

「よくも俺の……──」

 ──俺の?

 モモは高岡を(かば)いながら凪徒の台詞の続きも気になりつつ、更に自分の身の危険も感じていた。

 興奮した凪徒のパンチは止まりそうもない。

 ──ってことはあたしが殴られる? でも()けたら、お父様が──。