「あ、あの、お父様」

「何だい? 明日葉」

 そうしていつになく笑みを刻んだ父親としての顔は、どこか達観して見えた。

 全てをやり遂げて、もういつでも──すぐにでも明日葉の元へ行っても良いのだ。と告げているようだった。

「えと……あの、これ……買い物の時に桔梗さんと選んだのですが……良かったら使っていただけませんか? あたし、あんまりお金を持っていなかったので、殆ど花純さんと桔梗さんが出してくださったのですけど……」

 買ってもらったバッグからおもむろに取り出された小さな紙包み。

 恥ずかしそうに差し出されたモモの掌から受け取り、ゆっくりとほどいてみた中身は黒革のパスケースだった。

「明日葉さんのお写真が入った物は随分愛用されているみたいでしたから……もし嫌でなかったらそちらはお家に保管してもらって、今後はこちらを……あ、もちろん写真は入れ替えてくださいね」

 ハッとした紳士の驚きの瞳が、はにかんだモモの姿を捉える。