到着した凪徒が園内を捜索し出して三十分後──。

「とーっても楽しかったです!」

 モモはアトラクションエリアの屋外カフェスペースにて、テーブルを挟んだ高岡に笑顔で答えた。

「それは良かった。私もすっかり子供に戻った気分だったよ」

 春の陽差しは少しずつ強くなり、シェードがちょうど良い温度の影を落としている。

 時折吹く風も爽やかで、一息ついて冷たい飲み物を通す二人の喉を優しくくすぐった。

「これで……心残りはなくなった」

「え……?」

 細められて柔らかく見つめる紳士の眼に、刹那動きの止まってしまうモモ。

 心残り──なくなってしまったら、その後は?

「我が家に来た時の君は、或る意味『卵』だった。殻に守られて、閉じ籠もって……いや、閉じ込められていた。でも今は自然な笑顔が宿っている。それはきっとサーカスに戻っても現れるだろう」

「は……はい」

 満足したような高岡の微笑みを、表では有り難く思いながら裏では戸惑いを感じずにはいられない。

 自分の今までの人生に達成感を認めてしまったら、今後紳士はどう生きていくのだろう?