「えぇと……はい?」

 凪徒は黒い金属のずっしりとした重量感に戸惑いながら、目の前で微笑む桔梗を見下ろした。

 ──お嬢様だとか忘れ物だとか、全く意味が分からない。いや、一つ確かだったのは『サーカスの先輩』と言ったことだ。俺を『先輩』と呼ぶのはモモしかいない──。

「お嬢様は先輩様をとても尊敬していらっしゃると仰っておりました。ですが……」

 ──尊敬? でも?

「あのデコピンさえなければ。とも仰いましたけれども」

「あいっ……つぅ……!!」

 自分のすぐ前でクスクス笑い出してしまった桔梗の言葉が、凪徒の脳天を沸騰させた。

 ──あいつ……見つけ出したら、それこそデコピンでお仕置きしてやるっ!

「す、すみません、お嬢様のとっても怖がっているお顔を思い出しましたらつい……でも先輩様、どうぞお嬢様のお顔に傷を付けるようなことはなさいませぬよう……」

「あいつが仕置きされるようなヘマやらかすからだ」

「女性のお顔にお仕置きするなんて、わたくし共が許しません」

 桔梗は笑顔を絶やさないまま、それでも厳しい声色を見せた。