「それじゃあ──」

「あーわりぃ。その前に手洗い借りられるか?」

 ふと凪徒が暮に手を上げて、続く言葉を中断させた。頷く暮。

 「こちらです」と案内を始めた桔梗に連れられ、凪徒は館のエントランスを抜けた。

 洋館風のとにかく広い空間はまるでヨーロッパの宮殿のようだ。

 かなり奥まで通されて指し示された扉を開けたが、余りに広いバスルームにトイレを見つけるのにも苦労するほどだった。

 用を済ませた凪徒は廊下に戻ったが、既に桔梗の姿は消えていた。

 出口とは逆の方向へ(おもむ)き、幾つかの扉を開いて中の様子を(うかが)い見る。

 どの部屋も整然と片付けられ、美しい壁紙や装飾が煌びやかではあったが、鼻につくような華美ではなく、全てが品の良さを示していた。

 一番奥、突き当りの扉を開くと、そこにはかなり少女趣味に飾られた淡いピンク色の部屋があり、先程の桔梗が背を向けて立っていた。

 凪徒は控えめに声をかけ、

「あの?」

「あ、失礼致しました。お嬢様の忘れ物を探しておりまして……えっと……サーカスの先輩様でございますよね? こちらをお嬢様にお返しいただけますか?」

 そうして手渡されたそれは毎度の如く、あの(、、)エアソフトガンであった──。