甘い物は苦手ではないが、朝からさすがにこの量は厳しいな、とつい酌量の余地を求める視線を女性に投げかけていた。

「サーカスの皆様が真剣であられますように、こちらもこちらで真剣なのでございます。ですから……クレ様が出来ないと仰いますなら、その程度の真剣味として理解させていただきます」

「う……」

 弱腰の表情を悟られて放たれた厳しい言葉に、さすがにここで負けたら男がすたる、と暮は一転戦闘体制の顔つきに変わった。

 依然目の前で静かに(たたず)むメイド女性の(おもむき)も、先程と同じ(うら)らかな微笑みに戻る。

 そして一口──。

「わっ! うまいっ!!」

 生クリームの(ほど)()い甘さと、しっとりしたスポンジの柔らかさ、その両方を引き立てるフルーツの爽やかな甘酸っぱさ……どれをとっても非の打ち所がなく、気付けば一口また一口とケーキを運ぶ手を止められずにいた。

「クレ様、お紅茶をお持ち致しました」

 目の前の女性は身じろぎもせずに見守っているのに、ふと左手から同じ声が聞こえてきて、振り向いた暮は危うくケーキを噴き出すところだった。