夫人は以前の凪徒のパートナーだ。

 猛獣使いの鈴原との結婚を機に、ブランコ乗りからの引退希望を出したため、次代を(にな)える人材を育てようと若いモモが採用された。

 今は猛獣使いに転向し、夫妻で舞台に立つ毎日だ。

「まぁま、落ち着いて。モモの技量がどうこうって話じゃないんだ。実はこんな物が届いての」

 と、一通の封書を中央に置かれた小さなテーブルに広げてみせた。

「『いとしのモモサマを頂きたく(そうろう)。奪われたくなければ、明日の出演は見送るべし』……?」

 ──えっ!?

 二度目の心のざわめき。

 ちょうど文字がそちらへ向いたこともあり目の前の暮が読み上げたが、新聞の切り抜き文字であることと驚きから、その声は随分たどたどしかった。

「いとしのって……うえっ、気持ちわりっ」

「まるであたしが気持ち悪い人みたいな言い方しないでください……」

 まさしく言葉通りの吐くのを我慢するような凪徒の顔に、モモは困惑と(いまし)めの表情を上げた。