「海が良く見えて素敵なところですね」

「この傍にも展望台があるんだ。そこへ良く明日葉と行ったから。きっとここがいいだろうと思ってね」

 立ち上がり海を望んでふと、墓石に水を掛けてあげることを忘れていたことに気が付いた。

 紳士に水道と手桶の場所を訊き、モモは一人取りに走って、明日葉の墓地を綺麗に拭き上げた。

「ありがとう、桃瀬くん」

「いえ……あたしも明日葉さんにお礼をしたかったので」

 高岡や花純に桔梗──三人の素敵な家族に巡り会わせてくれたこと。

 自分がどうあるべきなのか気付かせてくれたこと。

 感謝してもしきれないくらいの気持ちだった。

 そして自分に会ってみたいと思ってくれたことも──明日葉が出来なかったことを、自分が全身で感じて伝えたい──そんな想いで一つ一つを丁寧に仕上げた。

「さて……行こうか、『明日葉』」

「はい、お父様」



 ──あと少しだけ、お父様をお貸しください、明日葉さん。



 残り数時間。二人きりの父娘(おやこ)の時間を心に深く刻み込むために──。