凪徒は(ゆる)い傾斜の土手に船を着けてもらい、お礼を言って老人を見送った。

 川の向こうから注ぎ込まれる(まぶ)しい朝の霞んだ光が、あたかもヴェネチアのゴンドラとゴンドリエーレ(船頭)かと思わせるように、船と老人をセピア色のシルエットに変える。

 イタリアのお洒落な光景を楽しんで一つふうと息を吐き、草を踏みながら坂を登る。

 凪徒はようやくバリケードの見当たらない通りのまばらな車道に出た。

「どっちだ?」

 仕方なく携帯の地図機能を表示し検索する。

 秀成に教えてもらった高岡邸はここから道のりで六キロほど。

 手前一キロの所に会社も在るので、おそらくこの時間では無人と思われるが、覗いていこうと心に決めて走り出した。



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