「気付いたんだね……自分の気持ちに」

「……はい」

 モモは少し恥ずかしそうに(うつむ)いて、手の中の湿ったハンカチを握り締めた。

 サーカスへ戻った後、自分は自分らしさを皆の前でさらけ出せるだろうか。

 いや、それは無理してすることではないし、無理して隠すべきものでもなかったのだ。

「ありがとうございます、お父様」

「きっと『それ』は、君のこれから生きる上での良い(かて)になったに違いないよ。その想いを大切にね」

「はいっ、ありがとうございます!」

 にこやかな笑顔で隣の紳士を見上げるモモ。

 偽りのない(まぶ)しい表情に、高岡は深い達成感を感じていた。

 そしてこれから始まる(わず)かな一日は『仕上げ』の時間だ。

 それはモモにとっても自分にとっても、かけがえのない(とき)でなければならない。

 残り少ない『明日葉』とのひとときと、自分自身の命の期限を決める有意義で満足の行く(とき)──やがて行き着くとてつもない長さの『(とき)』を幸せに満ちた物へと変えてくれる時間──誰にも邪魔はしてほしくない、だからこそ……『彼ら』が辿(たど)り着く前にこうして出てきたのだ。

 モモを求めるサーカスの『彼ら』が、その手に彼女を取り戻す前に──。