思えばこの二年、モモがブランコ以外のことで誰かに何かを相談したことなどなかった。

 質問することはあっても、それはあくまでも対処方法が分からなかったからだ。

 誰かに不平不満を言うことも、何かを大袈裟に喜ぶこともなかった。

 感情を吐き出しても、どこの誰が受けとめてくれるというのか。

 モモはそんな誰かを探すことを()めてしまっていた。

 そしてそれは年長となった施設での自分もきっと同じだった。

 今はサーカスで一番の新米であり、本当は失敗も悩みも表に出して、それを誰かに投げかけ投げ返してもらうべきだった。

 なのに誰にも迷惑を掛けないようにと全てを押し殺してしまった。

 能面みたいな変わらない笑顔が、いつのまにか刻み込まれて普通になっていた。



 『自分がしたいことを主張しちゃ悪い訳じゃない。無理する必要なんてないってことだ。やりたいことや言いたいことがあったら、俺や団長に言えばいい』──凪徒が呟いた言葉。



 やりたいことも主張したいことも、自分の中には無いと思っていたモモにとって、あの言葉にはピンと来ずにいた。

 でもそうなのだろうか? 本当は有ったのではないか?

 それをずっと胸の奥に隠してしまっただけで、自分でも分からなくなってしまっただけではないのだろうか?