──どうするか……越えられるのか?

 凪徒は橋を進みちょうど真ん中まで歩み寄った頃、上流から一艘の船がやって来た。

「あっ! おーい、おっさん!!」

 大声を上げながら手を振り、今一度橋を戻って下流側の斜面を駆け降りた。

 のんびり川の流れに身を任せ、笹舟のように流れていた長細い木船は、それに気付いて岸辺へ着けてくれた。

「悪いな、おっさん。この川、由倉(よしくら)結上(ゆいがみ)町まで行くか?」

 七十半ばくらいだろうか。

 老齢の痩せ細った男性は朝っぱらから呼び止められたことに驚いた様子だが、投げられた質問に(こころよ)く答えた。

「ああ~そうだね。結上ならちょうど通るさ。兄ちゃん、乗っていくか?」

 渡りに船とはまさしくこのことだ。

「助かる! 宜しく頼むよ、おっさん」

 早速乗り込んで真ん中に腰を掛ける。

 船は深く沈んだが、それでも意気揚々と走り出した。

 既に光に満ちた川面(かわも)を包む空気は、モモに着実に近付く凪徒の誇らしい鼻先を撫でながら、水と草の匂いを漂わせた──。