「どうする? 凪徒?」

 背後からの光を浴びた暮の横顔が問うた。

 けれど凪徒の顔は真っ直ぐ先を見つめ、揺るがない。

「そんなこと決まってる。車で行けないなら走るだけだ」

「お前っ……!」

 ──って、何キロあると思ってるんだ!?

「おい、秀成、高岡邸までここからどれくらいだ?」

 凪徒は通話を切らずにいた携帯に呼びかけた。

 やっぱり知らねえのかよ、と暮が呆れた表情を向ける。

「えーと……最短ルートで十八キロってところでしょうか。あくまでもバリケードを気にせず進めばですが」

「ハーフマラソン程度なら楽勝だ。みんなは車で向かってくれ。こんな障害、通勤時間までやっていられる訳がない。その内解除されるだろうし、今の時間だって全てを塞いでいるなんて有り得ない。抜け道見つけて追いかけてきてくれ」

「ああ……」

 逆隣の鈴原も驚きの(まなこ)で凪徒に返事をした。

 凪徒は(たの)しそうな顔をしたまま柔軟運動を始めた。

 ──こんな距離、毎日鍛練している自分の体力なら全く問題ない。朝のジョギングだと思えば気持ちいいくらいだ。

「じゃな、高岡の屋敷で!」

「お、おう」

 気圧(けお)された気分で見つめる全員を背にし、凪徒は悠々とフェンスを乗り越え走っていってしまった。

 残されたメンバーはしばらく(ほう)けたようにその雄姿に手を振っていたが、はたと気付いてナビのある車両に集まり、他のルートを探し出した。



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