★この度はお手に取ってくださり、誠にありがとうございます♡(^人^)♡



【プロローグ】


「あっ……こ、怖かった……」

 テントを駆け抜けて、いつの間にか敷地の境界まで一気に走っていた。

 胸に抱えた銃を思い出して慌てて手を放し、草の上に鈍い音が響く。

 一昨日のようにフェンスにもたれて、桜見物の人の山をぼおっと眺めた。

 先程あんなことが遭っただなんて、嘘のように思えてしまう(うら)らかな情景が広がっていた。

 しばらくして少女は一つ小さく息を吐いた。

 あたかも「落ち着きを取り戻さねば」と、自分に言い聞かせるように。

 それからテントに戻ろうと、銃を拾うため腰を(かが)める。

「お嬢さん、すみませんが化粧室はどちらになりますか?」

「え? あ、はい、それなら……」

 突然頭の上から中年男性の声が聞こえてきて、少女は少し先の黒い革靴に目を()めた。

 説明しようと背を伸ばしたその時──

「うっ……」

 首の後ろに衝撃が走り、目の前に星のような小さな光がチラチラと舞い散った。

 ──何? これ……──

「すまないね……少しだけお付き合いいただきますよ、『明日(あす)()』」

 頭上の声は次第に遠のいてゆく。

 気を失う寸前彼女が感じたのは、草の青い匂いだった──。



 ☆ ☆ ☆