「確かに、高校生の時は”好きだった”。いや、大学生になっても少しの間は“好きだった”かな。けれど、今は“好き”というより、なんていうんだろう、本当に”大切”な人なんだよね。その人はもう私の傍にはいないんだけど、それでも辛い時や壁にぶつかった時は、いつでも彼が残してくれた言葉が私を励ましてくれるから」
沙帆ちゃんは言い終えると同時に、愛おしそうな笑みを浮かべる。
今まで沙帆ちゃんとは“先生”と“生徒”として多くの時間を過ごしてきたけれど、こんな表情を見たのは初めてだった。
妬いてしまう。
俺にはそんな権利はないしただのわがままだと分かっている。
けれど、俺に見せたことの無い表情を浮かべ、俺以外の誰かを想っているという事実に、どうしようもなく嫉妬してしまった。
重症だ、心の中で自嘲する。
「尚樹」
そんな俺とは反対に、沙帆ちゃんは真っ直ぐ俺を見つめた。
「私は……その人がきっと一番辛かった時、傍にいたのに気づけなかった。その人はいつも私のことを見ててくれたのに、悩んでいる彼に手を差し伸べないどころか、そもそも気づきさえ出来なかった。それが、私の高校時代の唯一の心残りなの。今でも彼と最後に話した日に戻りたいと、強く願ってしまうほどに、後悔しているの。だから」
沙帆ちゃんは眉毛を八の字にしながらも、一生懸命笑った。
「自分にとって大切な人が、何かいつもと違うかな、と思ったら、その人の傍にずっといてあげて。『なにがあったの』『どうしたの』って、聞いてあげて。教えてくれなくても、傍にいてあげて。絶対に、離れないであげて」
震える声で、俺に言い聞かすように告げる。
「沙帆ちゃん」
気づけば身体が動いていて、思いっきり彼女を抱きしめていた。
俺よりずっと大人で、余裕があってー…それでも今、誰かを想って肩を震わせている。
彼女が自分以外の誰かを想っていることは明確で少し苦しかったけれど、目の前にいる沙帆ちゃんは儚くて、弱々しくて、抱きしめないと消えてしまう気さえした。
「わかった、わかったから。俺、沙帆ちゃんの傍にいるよ、今、俺は沙帆ちゃんの傍にいる」
――だって、俺にとって、沙帆ちゃんは大切な人だから。
俺は沙帆ちゃんから見れば幼い子どもだけれど、自分だけ見てもらえないことに拗ねてしまうような子どもだけれど、
沙帆ちゃんにとってその人がそうだったように、俺にとって沙帆ちゃんは、初めてすべて俺を笑顔で受け止めてくれた、素直になれた人だから。
だから、俺は、傍にいる。大人とか子どもとか、年齢とか立場とか気にせず、俺は、沙帆ちゃんの傍にいる。
「ありがとう」
沙帆ちゃんは喧騒にかき消されそうなぐらい小さな涙声で告げると、さりげなく俺の胸を押す。
離れようとしているんだろう。俺は気づかないふりをして、一層強く抱きしめた。
「……尚樹」
沙帆ちゃんはさっきよりも強く俺の胸を押しながら困惑気味に俺の名前を呼ぶ。
それでも聞こえないふりをした。
どうしても、今は離れたくなかった。傍にいたかった。
――ああ、そうか。俺、今はもう、この人に側にいて欲しいと思う以上に、俺がこの人のことを守りたいんだ。この人を苦しめるものから守りたい。いつも笑顔で居てほしい。
自分の気持ちに気づいてしまうと、やっぱりどうしても離したくなくて、抵抗し続ける彼女に、「ごめん」と呟いてからもう一度強く抱きしめる。
どうか、少しでも俺の本当の気持ちが伝わりますように、と心の中で強く願いながら。
沙帆ちゃんは言い終えると同時に、愛おしそうな笑みを浮かべる。
今まで沙帆ちゃんとは“先生”と“生徒”として多くの時間を過ごしてきたけれど、こんな表情を見たのは初めてだった。
妬いてしまう。
俺にはそんな権利はないしただのわがままだと分かっている。
けれど、俺に見せたことの無い表情を浮かべ、俺以外の誰かを想っているという事実に、どうしようもなく嫉妬してしまった。
重症だ、心の中で自嘲する。
「尚樹」
そんな俺とは反対に、沙帆ちゃんは真っ直ぐ俺を見つめた。
「私は……その人がきっと一番辛かった時、傍にいたのに気づけなかった。その人はいつも私のことを見ててくれたのに、悩んでいる彼に手を差し伸べないどころか、そもそも気づきさえ出来なかった。それが、私の高校時代の唯一の心残りなの。今でも彼と最後に話した日に戻りたいと、強く願ってしまうほどに、後悔しているの。だから」
沙帆ちゃんは眉毛を八の字にしながらも、一生懸命笑った。
「自分にとって大切な人が、何かいつもと違うかな、と思ったら、その人の傍にずっといてあげて。『なにがあったの』『どうしたの』って、聞いてあげて。教えてくれなくても、傍にいてあげて。絶対に、離れないであげて」
震える声で、俺に言い聞かすように告げる。
「沙帆ちゃん」
気づけば身体が動いていて、思いっきり彼女を抱きしめていた。
俺よりずっと大人で、余裕があってー…それでも今、誰かを想って肩を震わせている。
彼女が自分以外の誰かを想っていることは明確で少し苦しかったけれど、目の前にいる沙帆ちゃんは儚くて、弱々しくて、抱きしめないと消えてしまう気さえした。
「わかった、わかったから。俺、沙帆ちゃんの傍にいるよ、今、俺は沙帆ちゃんの傍にいる」
――だって、俺にとって、沙帆ちゃんは大切な人だから。
俺は沙帆ちゃんから見れば幼い子どもだけれど、自分だけ見てもらえないことに拗ねてしまうような子どもだけれど、
沙帆ちゃんにとってその人がそうだったように、俺にとって沙帆ちゃんは、初めてすべて俺を笑顔で受け止めてくれた、素直になれた人だから。
だから、俺は、傍にいる。大人とか子どもとか、年齢とか立場とか気にせず、俺は、沙帆ちゃんの傍にいる。
「ありがとう」
沙帆ちゃんは喧騒にかき消されそうなぐらい小さな涙声で告げると、さりげなく俺の胸を押す。
離れようとしているんだろう。俺は気づかないふりをして、一層強く抱きしめた。
「……尚樹」
沙帆ちゃんはさっきよりも強く俺の胸を押しながら困惑気味に俺の名前を呼ぶ。
それでも聞こえないふりをした。
どうしても、今は離れたくなかった。傍にいたかった。
――ああ、そうか。俺、今はもう、この人に側にいて欲しいと思う以上に、俺がこの人のことを守りたいんだ。この人を苦しめるものから守りたい。いつも笑顔で居てほしい。
自分の気持ちに気づいてしまうと、やっぱりどうしても離したくなくて、抵抗し続ける彼女に、「ごめん」と呟いてからもう一度強く抱きしめる。
どうか、少しでも俺の本当の気持ちが伝わりますように、と心の中で強く願いながら。



