夢を叶えた日、一番にきみを想う

「次」といっても、他に特に案内をする場所はなく、いつもお昼ご飯を食べている屋上に行くことにした。
屋上に続くドアをゆっくりと開けると、11月らしい少し冷たい風が俺たちにまとわりつく。
冷気に一瞬だけぶるっと身震いをしたけれど、沙帆ちゃんはそれほど寒く無かったのか、「屋上かあ、懐かしいなあ」と言いながら、大きく深呼吸をした。

「昼休みはここで昼飯食ってる。祐樹たちと」
「そっか、屋上でご飯っていいね、青春って感じ」
「まあ、男ばっかだけど」
「いいじゃん。仲の良い友達だけで過ごす時間って、意外と貴重なんだよ?」
「そういうもんなのかな」

もし、俺が後5年早く生まれていたら―もしくは、沙帆ちゃんが5年、遅く生まれていたら―制服を着た沙帆ちゃんと、毎日当たり前のように“一緒の”時間を過ごせたかな。
何のためらいもなく、「好きだ」と伝えられたかな。
同級生じゃなくてもいい。
せめて1年だけでも、一緒に学校へ通うことが出来ていたら、俺は彼女とどんな思い出を作ったかな。
願っても仕方がない。
それでもー…いつも当たり前のようにいる場所に、今彼女と一緒にいるからか、
同じ服を着て、同じ時間を過ごしたかったと、願ってしまう。

「沙帆ちゃんはどんな高校生だった?」

願いを叶えられないならせめて少しでも彼女が自分と同い年だった時のことを知りたいと思う。

「私? 普通の高校生だったよ?」

あ、嘘、問題児だったかも、と悪戯っぽく笑う。

「嘘だ。塾長が言ってた。沙帆ちゃんが通っている大学はめちゃくちゃ賢い、って」
「えー、塾長がそんなこと言っていたの?」

沙帆ちゃんは笑った後、「そうだなあ」と続けた。

「本当に問題児だったよ。特に高校生活前半は、何事にもやる気が無くて、自分の将来さえどうでも良いと思っていた。それでもね、一人の先生と出会えて変われたの」
「……どんな先生だったの?」

沙帆ちゃんは温かな眼差しで―いつも俺に向けてくれるものととても似ていて、けれどどこか違う眼差しで―空を見つめると、ポツリと、けれど丁寧に続けた。

「私の全部を受け止めてくれた、そして認めて信じてくれた、私にとって凄く大切な人」
「……そうなんだ」

以前、「どんな人が好きなの?」と聞いた時の答えを思い出す。
その時の答えとは少し違うけれど、でも、わかってしまう。
いや、この表情を見たら、きっとあの言葉を聞いていなくてもわかった。
俺が沙帆ちゃんのことを好きだから。だから、わかってしまう。

沙帆ちゃんは、きっとその人のこと。

「好きなんだ、その人のこと」
「……ううん、”好き”とは違うかな」

沙帆ちゃんは瞳に切なさを浮かべながら続けた。