夢を叶えた日、一番にきみを想う

「……あの人のこと、好きなままでいいよ、って言ったじゃん」
「うん、でもそれは俺が嫌なんだ」
「……あの人と付き合える可能性、あると思っているの?」
「実優……」

もしこの問いかけを、今以外にされていたら、きっとムカついていただろう。
でも、今は怒る気持ちになれなかった。
誠意とかそんなかっこいいものじゃないけれど、別れを切り出したのは俺だから。
そしてきっと今日で実優と“恋人”として話すのは最後だから、出来るだけ素直に答えたかった。

「わからない」

実優はジッと俺を見つめる。

「この前実優も言っていたけど、相手は大人で、俺は未成年だろ。相手だって、俺のこと“子どもだ”って思っていることが伝わってくる。そもそも俺が恋愛対象に入るのかもわからない。でも、俺、」
「好きなんだね」

実優は俺の代わりに、その言葉を口にした。

「……教えてほしい。どうしてその人のこと、そんなに好きになったの?」
「……わからないんだ。どうしてこんなにも好きなのか、自分でもわからないんだ」

これも正直な答えだった。

「でも……きっと、出会った時から、真っ直ぐ俺のことを見てくれていたからかな」

俺の答えに実優は何も言わない。

「初めてだったんだ。こんなにも強く、この人の傍にいたい、って思ったのは。この人に傍にいてほしい、って思ったのは。それで……この人を甘やかせる人間になりたい、と思ったのは。この人を守れるぐらい、強い大人になりたいって思ったのは」
「……もういいよ、わかったよ。最低だね」

実優は少しの沈黙の後、涙を混じらせながら、吐き出した。

「これって、浮気されたんだよね」
「……ごめん」

浮気、と言われれば、浮気だった。だって実優と付き合っていて、沙帆ちゃんを好きになったんだから。

「……私、尚樹のこと本当に好きだった。いつも素っ気ないのに、本当はすごく優しいこと、知っていたから。デートしたいって言えばデートしてくれたし、行きたいところにも連れて行ってくれた。けど、それはいつも私からだったよね。どこかに行きたいときも、何かをしたいときも、いつも私からだった。それはそれでよかったの。一方通行かもしれない、って思いながらも、尚樹と一緒にいれるだけで幸せだったから。でも……」

俯いた彼女からポロポロと涙がこぼれ出た。

「あの人には、違うんだね。あの人の為に、尚樹が何かをしてあげたいんだね。そんなのもう……勝ち目無いじゃん」

静かな住宅街に、実優の泣き声が響き渡る。
ごめん、本当にごめん。
もし俺が実優の優しさに甘えず、もっと早くに別れていたら、ここまで苦しめなかったよな。
ごめんな、俺、本当にダメな奴だった……。