夢を叶えた日、一番にきみを想う

「沙帆ちゃん!」

数歩進んだ彼女は、俺の声にびくっと肩を揺らすと、ゆっくりと振り向いた。
声が大きかったのか、周りの人が俺を見ていたけれど、気にならなかった。
言わないといけない。今、言わないといけない。

「沙帆ちゃん」

彼女の目の前に立って彼女を見つめると、彼女の瞳がわずかに揺れた気がした。

「俺、沙帆ちゃんのこと」
「逢いに来て」
「え?」
「夢が叶ったら、逢いに来て。そして家、建ててよ」

彼女は俺が続けようとした言葉に気づいたのかわからないけれど、俺の言葉に被せるように告げた。

「私も頑張るから。お互い夢を叶えたら、また逢おう。次は大人同士として、ね?」
「夢を叶えたら……逢いに行ってもいい?」
「もちろん。待ってる」

いつも通りの優しい笑みを見せる。

「その時、色々聞かせて。どうやって夢を叶えたのか、夢を叶えるためにどんな人たちと一緒に歩んできたのか。たくさん教えてね。楽しみにしているから」
「うん……」

堪えていた涙が目からこぼれ落ち、慌てて手の甲で拭う。
沙帆ちゃんはハンドバッグの中から一通の手紙を取り出し、「これ」と俺に差し出した。

「やっぱり渡しておく。いらなかったら捨てて?」
「俺に?」
「うん」
「……ありがとう」

沙帆ちゃんは「どういたしまして」と、ニコッと笑う。

「それじゃ、次こそ、行くね?」

泣かないで、と言う彼女に「ごめん」と伝えると、「ううん」と微笑まれる。

「今日はありがとう。また、ね?」

実現が約束されていない言葉を告げて、沙帆ちゃんは笑顔のまま、俺に背を向けた。

行ってしまう。彼女が、行ってしまう。

「尚樹!」

ぼやけた視界の中で、大好きな人が、ふわりと、大好きな笑顔で俺の名前を呼んだ。

「頑張れ!」

保安検査場越しに見える桜の木に包まれるように、彼女は俺の前から、旅立った。