夢を叶えた日、一番にきみを想う

約束よりも10分ほど早く現れた彼女は「久しぶり〜!」と明るく笑った。

「元気にしてた?」
「うん」
「ちゃんと春季講習頑張ってる?」
「あたり前じゃん、受験生なんだから」
「そうでした」

彼女と、何度もしていた歯切れの良い会話に、思わずフッと笑う。
沙帆ちゃんも同じことを思ったのか「なんだか懐かしいな〜」と微笑んだ。

「それより、荷物少なくない?」

両手に大きなスーツケースを持って現れるかと思っていたのに、右手に小さいキャリーバッグを持っているだけだった。

「もう預けて来たの。本当はね、こんなにも大きいスーツケース、持ってきていたんだよ」

彼女は手であらわした大きさに、思わず目を見開く。

「そんなにも?!」
「うん、だってしばらくは日本に帰って来ないんだもん」
「……しばらくって、どれくらい?」
「どれくらいかなあ? 仕事で来ることはあっても、長期滞在するのは仕事を辞めるまで無いんじゃないかな。生活の拠点はあっちになるから」
「……そっか」

改めて聞くと、その事実は俺にとって途方もなく寂しい。
それでも。

「飯、食いに行く?」

今日は笑顔で見送る約束だから、その気持ちを胸の奥底へしまいこむ。耐え難い辛い想いは、後から一人で味わえば良い。それに。

「うん、そうしよう。何食べたい?」
「沙帆ちゃんが決めて良いよ。日本で食べる最後の食事じゃん」

今日は一度でも多く、彼女の笑顔が見たい。