沙帆ちゃんがコンビニへやってきたのは、授業が終わってから1時間少し経った時だった。
「ごめん!! 結構遅くなっちゃった!!」
「待たせちゃったよね、ごめんね」とかなり申し訳なさそうに謝罪する彼女に「ううん、宿題やってたから」と首を振る。
「あ、そうだ、後任の先生がね、英単語のテストは続ける、って言っていたよ」
来週からも頑張ってね、と沙帆ちゃんは俺に微笑みかけたけれど、どこか他人事のように放たれた言葉に頷く気にもなれず、机の上に広げていた教科書を適当にカバンの中に突っ込んだ。
「ちゃんとご両親に遅くなること伝えたよね?」
「うん、言った」
「何も言われなかった? 怒られたりしなかった?」
「全然」
「沙帆ちゃんを送っていくから遅くなる」と伝えた時に、かなり意味深に「頑張れ〜」と母さんにニヤニヤしながら言われたことは黙っておく。
たわいもない話をしながら電車に揺られていると、あっという間に沙帆ちゃんの家の最寄駅に着く。
「送ってくれてありがとう」
改札を出たところで、沙帆ちゃんは「ここで大丈夫だから」と俺に向き合った。
「それよりも、話って……?」
「え、あ、うん」
沙帆ちゃんの質問に、急に心拍数がドッとあがるのを感じた。
何度も何度も頭の中でシミュレーションをしていたはずなのに、いざとなると緊張で頭が真っ白になる。
渡さないと、まずはアクセサリーを渡さないと。
「……これ」
カバンの中からショッパーごと取り出すと、沙帆ちゃんはわかりやすく大きく目を見開いた。
「一年間、お世話になったお礼」
「うそ……」
目をぱちくりさせている彼女に「はい」と渡す。
「ありがとう!! このブランド大好きなの!!
彼女の言葉に、心の中で「よかった〜…」と安堵の息をつく。
正直、女性用のアクセサリーブランドなんて全くわからない。夜な夜なSNSでの口コミを調べた甲斐があった……。
「でもここのブランド、高かったでしょう?」
「別に」
高かった。実際、しばらくの間はー母さんに借金を返さないといけないしー金欠だろう。それでも、喜んでくれたのなら、それだけでよかった。そもそもこれから一年間は受験生だから、それほど遊びにもお金を使えない。お小遣いは大人しく借金の返済にあてられる。
「中、見ても良い?」
「うん」と頷くと、沙帆ちゃんはショッパーからケースを取り出し、ゆっくりと開けた。
「ネックレスだ……!」
「綺麗〜…!」と感嘆の息を漏らす彼女に、「気に入ってもらえるかわからないけど」と本音を伝えると、「すごく気に入ったよ!」と間髪入れずに返される。
「とっても可愛い。ありがとう。大切にするね?」
「うん」
「まさかプレゼントもらえるとは思わなかったな〜、出国する日、つけるね」
「出国、いつなの?」
大切そうにネックレスを見つめる沙帆ちゃんに問いかけると、「3月28日」と教えてくれた。
「ちょうど今日から2週間後だよ。尚樹は春季講習の時期」
「見送り、行ってもいい?」
「見送り!?」
チャンスだ。会えるのは今日が最後だと思っていた。でも、もし見送りに行くことが出来たら、もう一度会える。後一度、会える。
今日で最後だと思っていたのに、また会えるチャンスがある。
期待を込めて沙帆ちゃんを見たのに、沙帆ちゃんに呆気なく「ダメ」と断られた。
「どうして?」
「どうしても」
「……理由教えてもらえないと、諦められないんだけど」
口をとがらせた俺に、沙帆ちゃんは「まあ、確かに」と苦笑する。
「お見送りきてもらうと、絶対湿っぽくなっちゃうじゃん。そういうの、嫌なの」
親にも見送りにきてもらわないことにしたの、と彼女は付け加えた。
「前も話したよね。私が外国に行くのは、”夢を叶えるためだ”って。せっかく前向きに旅立つのに、悲しい雰囲気で旅立つのは嫌じゃん」
「じゃあ、笑顔で見送るから」
「そんなこと出来る?」
「出来る」
正直出来るかはわからないけれど、今日で最後にならないのならば、意地でも涙は堪えよう。
「ごめん!! 結構遅くなっちゃった!!」
「待たせちゃったよね、ごめんね」とかなり申し訳なさそうに謝罪する彼女に「ううん、宿題やってたから」と首を振る。
「あ、そうだ、後任の先生がね、英単語のテストは続ける、って言っていたよ」
来週からも頑張ってね、と沙帆ちゃんは俺に微笑みかけたけれど、どこか他人事のように放たれた言葉に頷く気にもなれず、机の上に広げていた教科書を適当にカバンの中に突っ込んだ。
「ちゃんとご両親に遅くなること伝えたよね?」
「うん、言った」
「何も言われなかった? 怒られたりしなかった?」
「全然」
「沙帆ちゃんを送っていくから遅くなる」と伝えた時に、かなり意味深に「頑張れ〜」と母さんにニヤニヤしながら言われたことは黙っておく。
たわいもない話をしながら電車に揺られていると、あっという間に沙帆ちゃんの家の最寄駅に着く。
「送ってくれてありがとう」
改札を出たところで、沙帆ちゃんは「ここで大丈夫だから」と俺に向き合った。
「それよりも、話って……?」
「え、あ、うん」
沙帆ちゃんの質問に、急に心拍数がドッとあがるのを感じた。
何度も何度も頭の中でシミュレーションをしていたはずなのに、いざとなると緊張で頭が真っ白になる。
渡さないと、まずはアクセサリーを渡さないと。
「……これ」
カバンの中からショッパーごと取り出すと、沙帆ちゃんはわかりやすく大きく目を見開いた。
「一年間、お世話になったお礼」
「うそ……」
目をぱちくりさせている彼女に「はい」と渡す。
「ありがとう!! このブランド大好きなの!!
彼女の言葉に、心の中で「よかった〜…」と安堵の息をつく。
正直、女性用のアクセサリーブランドなんて全くわからない。夜な夜なSNSでの口コミを調べた甲斐があった……。
「でもここのブランド、高かったでしょう?」
「別に」
高かった。実際、しばらくの間はー母さんに借金を返さないといけないしー金欠だろう。それでも、喜んでくれたのなら、それだけでよかった。そもそもこれから一年間は受験生だから、それほど遊びにもお金を使えない。お小遣いは大人しく借金の返済にあてられる。
「中、見ても良い?」
「うん」と頷くと、沙帆ちゃんはショッパーからケースを取り出し、ゆっくりと開けた。
「ネックレスだ……!」
「綺麗〜…!」と感嘆の息を漏らす彼女に、「気に入ってもらえるかわからないけど」と本音を伝えると、「すごく気に入ったよ!」と間髪入れずに返される。
「とっても可愛い。ありがとう。大切にするね?」
「うん」
「まさかプレゼントもらえるとは思わなかったな〜、出国する日、つけるね」
「出国、いつなの?」
大切そうにネックレスを見つめる沙帆ちゃんに問いかけると、「3月28日」と教えてくれた。
「ちょうど今日から2週間後だよ。尚樹は春季講習の時期」
「見送り、行ってもいい?」
「見送り!?」
チャンスだ。会えるのは今日が最後だと思っていた。でも、もし見送りに行くことが出来たら、もう一度会える。後一度、会える。
今日で最後だと思っていたのに、また会えるチャンスがある。
期待を込めて沙帆ちゃんを見たのに、沙帆ちゃんに呆気なく「ダメ」と断られた。
「どうして?」
「どうしても」
「……理由教えてもらえないと、諦められないんだけど」
口をとがらせた俺に、沙帆ちゃんは「まあ、確かに」と苦笑する。
「お見送りきてもらうと、絶対湿っぽくなっちゃうじゃん。そういうの、嫌なの」
親にも見送りにきてもらわないことにしたの、と彼女は付け加えた。
「前も話したよね。私が外国に行くのは、”夢を叶えるためだ”って。せっかく前向きに旅立つのに、悲しい雰囲気で旅立つのは嫌じゃん」
「じゃあ、笑顔で見送るから」
「そんなこと出来る?」
「出来る」
正直出来るかはわからないけれど、今日で最後にならないのならば、意地でも涙は堪えよう。



