夢を叶えた日、一番にきみを想う

「あのさ」

授業終わり、わざとゆっくり片付けをして、誰もいなくなった教室で切り出す。

「明明後日の授業終わり、家まで送っていったらダメ?」
「家まで? 私の?」

沙帆ちゃんは目を大きく見開いた。

「どうして?」
「ちょっと話したいことがあるから」

沙帆ちゃんは俺の言葉に「うーん」と少し悩む様子を見せた。

「教室じゃ話せないことなのかな?」
「……うん」
「そっか。じゃあ、授業終わり、下の駐輪場とかではどうかな?」

沙帆ちゃんは、「ダメだ」とは言わないけれど、それでも俺の誘いを受けようとしていないことは伝わってくる。

「出来れば、家まで送りたいんだけど」

彼女と一緒にいることができる時間には限りがあって、もう終わりが見えているからこそ、一秒でも長く一緒にいたかった。
でも、次に彼女から返ってきた言葉は、はっきりとした否定だった。

「……それは、難しいかな」
「どうして?」
「どうして、って。尚樹、尚樹はまだ未成年だよ。私が尚樹を送ることはできても、尚樹に送ってもらうことはできないよ」

ましてや生徒だし、と沙帆ちゃんは付け足した。

「……でも、明明後日、授業が終わったら、もう俺、沙帆ちゃんの生徒じゃないじゃん」

”未成年”ということは、聞かなかったことにした。どうあがいたって、その事実は変えられないから。

「それはそうだけど……」

沙帆ちゃんは「それに」と続ける。

「明明後日の授業の後は、後任の先生に引き継ぎもしないといけないし……きっと塾を出るのが遅くなっちゃうと思うの。そんな遅くまで待ってもらえないよ。暗い中待ってもらうのは危ないし」
「それなら、駅前のコンビニのイートインスペースで宿題でもしながら待っておく。あそこなら暗く無いし、危なく無いし」

俺の言葉に、沙帆ちゃんは少しの間黙った後、「それなら、私が、尚樹を尚樹のお家まで送って行くのじゃダメかな?」と俺の顔を覗き込む。

「うーん……」

授業終わりに会えないよりはずっとマシだけれど、出来れば送っていきたい。
”送ってもらう” だと、いつまでたっても、「先生」と「生徒」という関係ー守る側と守られる側」という関係ーから抜け出せない気がした。

俺の微妙な返事に、沙帆ちゃんは「わかったよ」と苦笑した。

「わかった。じゃあ、明明後日の授業終わり、送ってもらおうかな」
「本当に!?」

喜びの声をあげた俺に、沙帆ちゃんは「うん、でも約束があるよ」と続ける。

「出来るだけ早く引き継ぎを終えられるように努力はするけれど、きっと遅くなっちゃうと思うの。だから事前に、ご両親に伝えておいて。『私を送っていくから、遅くなる』って」
「わかった」
「絶対だよ? ちゃんと言ってね?」
「わかったってば」

沙帆ちゃんを送っていけるんだ。わざわざ言わなくても良い気がするけれど、きちんと伝えておこう。

「よし。じゃあ、明後日、よろしくね」

沙帆ちゃんの笑顔に、思わず心の中でガッツポーズをした。