夢を叶えた日、一番にきみを想う

開けた窓から、暖かい風が吹き込む。
窓の外に広がっているグラウンドでは、フェンス沿いに植えられている桜がいくつもつぼみをつけているのがはっきりと見えた。

もうすぐ、春が来る。
もうすぐ、彼女が去ってしまう。
すぐに過ぎ去って欲しく無い時ほど時間はあっという間に過ぎ去ってしまうのはどうしてなんだろう。

沙帆ちゃんの授業は、今日を含めて、後2回しか残っていなかった。

そばにいたい。遠くに行って欲しく無い。

願ってもどうしようもないのに、それでも最近はずっとこればかり願ってしまう。

もし俺が、彼女と同級生だったら、こんな思いをしなくて済んだ?
それとも、同級生だったら、そもそも彼女と出会えなかったのか?
ーー出会えないのは絶対に嫌だ。たとえ離れることになっても、それでも、彼女と「出会えない」世界なんて、絶対に嫌だ。

それならー…彼女と出会うことが出来ただけ、俺は”幸せ”と思うべきなのか。

目を閉じると、

「尚樹!」

満面の笑みで俺の名前を呼ぶ沙帆ちゃんを思い出してしまう。
その笑顔が愛おしくて、好きで、苦しくなる。

ため息をついた時、背中が何かでツンツン、と突かれた。

振り向くと、後ろに座っている男子生徒は顎で黒板を指す。

「当てられているぞ?」

それにつられるように前を向くと、教卓に立っていた数学の教師が「やっと気づいたか」と苦笑した。

「なんだ名城、もう春休み気分か?」

先生の言葉に、教室中がドッと笑いに包まれる。
いつもなら「すんません」と軽く返す場面なのに、それすらする気分になれず、真顔のままぺこりと頭を下げた。

顔をあげると、俺を見て笑うクラスメイトたちの中で、翔だけが心配そうにこちらを見ていた。