夢を叶えた日、一番にきみを想う

バレンタイン当日にチョコレートを渡すと、沙帆ちゃんは「本当!? 私に!?」ととても喜んでくれた。

「ここのチョコ、美味しいよね。ありがとう! 大切に食べるね!!」

まさか尚樹からもらえるとは思っていなかったなあ、と彼女は満面の笑みを浮かべる。
その笑顔を見て、ふと半年前に渡した、ひまわりの花束を思い出した。

「……いつもお世話になってるから」
「うん。すっごく嬉しいよ、本当にありがとう!!」

今日家に帰ってから食べようっと、と、彼女は上機嫌で言う。

やっぱりイベントの日にチョコレートを渡すことは恥ずかしくてーそれにそもそも俺は本来、もらう立場だと思っていたからー渡そうか授業が終わるまで悩んでいたけれど、この笑顔を見られたということは、「渡すこと」が正解だったのだろう。
よかったな、と思っていた時、「あ、そうだ」と沙帆ちゃんは急に真面目な顔をした。

「……何?」

彼女の表情に、なんとなく嫌な予感がする。どうかこの予感が外れますように、と思っていたのに、「あのね、」と沙帆ちゃんは少し気まずそうに切り出した。

「私が授業を担当する、最後の日が決まったの」

早めに伝えておいた方が良いかなと思って、と前置きをしてから、「3月14日になったよ」と告げた。

「私の後任は、12月に私がお休みした時に担当してくれた先生になるから」

3月14日。ちょうど、今日から一ヶ月後。

週に2回しか授業は無いから、後こうやって会えるのは、もう10回も残されていないのかー…。
いつかこの日が来ることはわかっていた。わかっていたけれどー…。

沙帆ちゃんは、春季講習も後任の先生が担当してくれるとか、引き継ぎがどうとか、色々話してくれたけれど、内容は全く頭に入ってこなかった。