「はぁぁ……」



大希を乗せた車が出発する音を聞いて、肩を落としてため息をついた。


悪女が覇王に見初められるなんて誰が予想できた?


原作ではまったく関わりのなかったふたりなのに。



「厄介な男に好かれたもんだな」



後ろから声がして、振り返ると志勇が同情したように見せかけておもしろがっている。


相変わらずの性悪男め。



「あんたに言われたくないわ」



そして独占欲が強すぎる厄介代表の志勇に言われたくない。



「いやー、誰も予想出来なかったよこの結末は」

「私が1番びっくりしてるよ」



颯馬なんて完全に口角を上げて志勇よりタチが悪い。


後で涼ちゃんにチクってやる。



「でも割と好きでしょ?ガード固いみーちゃんがキスまでしたって言うなら」

「思い出させないでよ、あいつが強引なだけだから!」

「ふーん」



触れてほしくない部分をほじくり返しやがって。


颯馬は相変わらず人の嫌がることが好きらしい。


でも、荒瀬兄弟の意地悪さが今は少し懐かしい。


なんだかんだ言って心配してくれてるのは分かってる。


この兄弟は関心のない人間と会話しないから。


こういう傍若無人で人としてどうかと思う対応ができるのも、彼らが荒瀬の正統な血を引いているからなんだろう。


大希はそうではなかったから、老若男女誰にでも人当たりはとにかくよかった。


まあ、ひねくれレベルで言えば志勇と大差ないけど。


あーもう、また大希のこと考えてる。



「あと1か月で壱華とお別れなんて……」



疲れたからなんにも考えたくない。


私は壱華に抱きついてその胸の中で深呼吸した。