特等席〜私だけが知っている彼〜

放っておくとポストにチラシなどが溜まってしまう。椿芽は、自分の住んでいる部屋番号が書かれたポストをいつものように開けた。そこには分厚い手紙が入れられていた。

「何これ?」

何も考えずに椿芽は手紙の封を開けた。刹那、その中に入っていたものに寒気が走り、床に落としてしまう。封筒の中身があちこちに散らばっていった。

そこにあったのは、五十鈴と楽しそうに歩いている自分の写真だった。つい最近カフェに一緒に行き、スイーツを食べている写真まで入っている。

「何これ……誰かがずっと私たちを盗撮してたってこと……?」

写真を一枚ずつ震える手で拾い、椿芽は周りを警戒しながら部屋まで向かう。ドアをしっかりと施錠した後、椿芽はその場に座り込んでしまった。

「五十鈴くん……」

頭の中に五十鈴が浮かぶも、今も撮影をしているであろう彼に助けを求めることも、相談することもできない。どうすればいいのかわからず、椿芽はその手紙を引き出しの中に入れ、寝食ができないまま朝まで震えていた。