青時雨


 悠介さんの別荘は、那須の別荘地の外れに、深い木立に隠れるようにたたずんでいた。

「大抵は避暑かスキーシーズンに来るのですが」

 悠介さんは、紅い煉瓦(レンガ)造りの別荘を見上げながら、言った。

「この季節に、敢えて霧や雨に溶け込んでしまいたくて、訪れることもあります」

「寂しくはありませんでしたか?」

「寂しさを識らないと、自分を直視できないと思いました。独りぼっちの自分を認めないと、全てに嘘をついてしまう、と」

 静かに微笑む悠介さんを見て、私が彼の何に惹かれていたのか、ようやく分かった気がした。
 悠介さんが纏う、孤独と寂寥(せきりょう)の影。
 伊東の海の輝きに包まれてもなお、彼の瞳の奥には、昏い孤独の影が見えた。
 きっとその時、私も彼と同じ瞳の色をしていたのだろう。

 だから──。 

「悠介さん」

 私は悠介さんを呼び止めると、にっこり微笑んで、彼に右手を差し出した。
 悠介さんも微笑んで、私の手を握り返してくれた。
 
 そして私たちは、互いの手を握りあったまま、彼の別荘に入った。