首都高速から東北自動車道に入り、那須高原までは3時間ほどの道程(みちのり)になる。私たちを乗せた白いSUVは快調に北を目指した。
 東北自動車道に入る頃には空も晴れ渡って、車窓から見える葉の緑を輝かせていた。

「那須は、お詳しいですか?」

 SUVのハンドルを握りながら、悠介さんが言った。

「取材で訪れたことは何度かありますが、プライベートは初めてです」

 本当に彼と旅行に来たような気分で、私は応えた。そんな様子の私を見て、悠介さんは優しく微笑んでくれる。

「霧の多い場所なんです、雨も多くて。でも静かで落ち着いていて、すごく素敵ですよ」

 全てに逆らって二人でいることを選んだ、私たちにお似合いの場所だと思った。

 ここに来るまでに、辞表を封筒に収めてポストに投函した。受け取ったデスクは狂乱するだろうけど、せめてもの意趣返しだった。
 そんな私のささやかな悪戯(いたずら)を、悠介さんは優しい目で見守っていてくれた。

 東北自動車道を那須インターチェンジで降りると、悠介さんが声をかけてきた。

「ランチにしましょう。素敵なカフェがあるんです」

 10分ほど走って彼が車を止めたのは、オープンテラスが素敵な、四方がガラス張りのサンルームのようなカフェだった。

「霧の多い土地柄だけど、晴れ間を覗かせる日は大抵、ここでランチと食後のコーヒーを楽しんでいます」 

 店員に導かれて、私たちは窓沿いのテーブルに席を取った。大きなガラス越しに、綺麗に手入れされたイングリッシュ・ガーデンが見える。

 色とりどりの草花を愛でながら、私はサラダがいっぱいのランチプレートを、悠介さんはビーフシチューとパンのセットをいただいた。
 食後のチーズケーキとコーヒーに至るまで、全てが可愛くて、溜息をつくくらいに美味しい。

 悠介さんと素敵なランチを楽しみながら、私は心の奥底で感じていた。

 もう5年早く、この人と出会えていたなら、と──。