私は青山霊園を横切って、雨の中を歩き続けた。
 大通りを避け、小路を縫いながら、夢遊病のように歩き続けた。
 脚が上がらなくなるまで、歩き続けたかった。
 
 脚に疲労を感じ始めた頃、交わった通りを右に折れて、乃木坂の方向に進んだ。
 病院を横目に見ながらさらに歩くと、乃木公園が見えてくる。
 私は雨の公園に入り、遊歩道に置かれたベンチに腰掛けた。

 雨の日の公園は、人影も疎らだった。
 私は傘を閉じて、冷たい雨に打たれた。

 自分がどうしようもなく、穢れた物に感じられた。
 恋人と別れた寂しさから、既婚者と情を重ね、かりそめの安らぎに身を委ねた。
 その報いを受けるように、相手の妻に首を締められ、二人の関係を勤務先に曝露(ばくろ)された。 
 
 明日が、見えない。
 心がひび割れて、ぽろぽろ砕けていくように感じる。

 もう──疲れた。

 動く気力も、考える気力も無い。
 このまま雨に打たれて、溶けて消えてしまいたい。
 
 私は髪が濡れて、頬を伝う(しずく)が首筋を伝って服に染み込むのも構わずに、雨に打たれ続けた。
 
 冷たい雨だけが、私に優しかった。