青時雨


 悠介さんは既婚者だ。そして私の知らない闇を抱えている。

 でも彼は優しくて、私を女として、一人の人間として、大切にしてくれる。
 私が気を失うほど、狂しく愛してくれる。
 私が気を失なった、後も──。

「純さん──」

 頂きを越えた静かな凪のなかで、彼は優しく囁いてくれる。

「ごめんなさい、純さん。こんなに好きになってしまって。こんなに、愛してしまって」

 銀座の料亭で美味しい懐石料理を楽しんでから、悠介さんは私を落ち着いた雰囲気のシティホテルに誘った。
 
 部屋に上がってカーテンを開け放つと、東京タワーが紅く輝いていた。

 部屋の灯りを落として、東京タワーの輝きを灯火(ともしび)代わりに、私たちは何度も愛し合った。
 
 彼の分厚い手に愛されながら、私も彼に、囁き返した。

「愛しています、悠介さん──」