私の悠介さんへのインタビュー記事は好評で、部内で悠介さんにコラムを書いてもらったらどうかという意見が出た。
 
「戸田くんは前回記事のインタビュアーでもあるし、この企画は君にお願いするよ」

 デスクは含みのある笑みを浮かべながら、私にそう言った。
 断われるものなら断りたかったけど、
 
「片桐社長は業界の風雲児だし、レジャーやアートの造詣も深い。読者にも喜んでもらえる記事になるだろう。それに──」

 デスクは私の顔を覗き込むようにして、

「片桐社長のところから、大口の広告依頼があった。我々としても社長とは良好なパートナーシップを築いていきたい」

 要するに、太客を逃すなというのが本音で、コラムの依頼はその隠れ(みの)のようなものだった。

 企画会議の後、私はフロアの片隅で自販機のコーヒーカップを片手に、鈍色(にびいろ)に翳る窓の外の景色を眺めていた。

 憂鬱だった。
 これで、悠介さんと継続的に会わなくてはならないことになった。
 彼はまた、私を求めてくるだろうか。
 
 彼に惹かれている自分がいる。
 その一方で、私は彼の「闇」を覗いてしまった。
 私は悠介さんの「闇」に怯えたまま、彼の傍にいなければならないのだろうか。

 コーヒーをゆっくり冷ましながら飲み終えると、私は自分の席に戻って、呼吸を整えてから受話器を取り上げた。