M駅のそのジムが入っている、雑居ビルの近く、楓と二人張り込む。
ターゲットの、近藤日和さんを待つ。
「近藤さん来たら教えてね?」
私はその人の顔を知らないから。
「分かった」
楓のその声はやる気はなさそうだけど、
目は真剣にその相手を探している。
そして、待つ事、一時間程。
「あ、あれ、近藤さん!」
「え、どれ?」
「ほら?あのベージュのジャケットの!」
「あ!分かった!あの人ね!」
今から、とんでもない事をしようとしているのに、
ターゲットの近藤日和さんを見付け、私達ははしゃいでしまう。
その近藤日和さん。
容姿は……。
顔は普通だけど。
ジムに通ってるだけあって、とてもスタイルが良い。
背も高くスラッとしている。
なんだか、ちょっとなんとも言えない気持ちが湧く。
正直、ありえないくらい不細工な女性なら良かったのに、というか、
勝手に、そうなんじゃないか、とか思っていた。
こんな素敵な女性が、私の夫の楓に好意を寄せているのか…。
「桃子ちゃん、やっぱり辞めておく?」
楓は、そうやって暗い私の顔を見てそう訊いて来るけど。
「ほら、早く行って来て!」
楓の背を、押す。
楓に私の心を見透かされたようにそう訊かれ、
逆に私はこの作戦に前向きになった。
意地に、なったのかもしれない。
事前に、楓とは計画を相談していた。
ターゲットの近藤日和さんと、そうやって偶然に会った風を装い、
そのままお酒でも飲みに連れて行く。
そして、ラブホテルへ…。
その現場を、私が証拠として写真に撮る。
探偵なんて雇うお金がないから、私自らそうする。
にしても、遠目で今、楓とその近藤日和さんが話しているのを見てるけど、
とても親密そう。
普段の美容室でのお客さんとしての接客中も、あんな感じなのだろうか?
なんだか、キリキリと胸が痛む。



