「慰謝料として、私に100万円。
金輪際、私の夫に近付ない事を約束してくれるのならば、今回の事は水に流します」


そう言うと、近藤日和さんは困ったように私の顔を、見て来る。



「100万って、そんな…」


「だって、あなた、私の夫の中村楓が既婚者なの、知ってましたよね?」


「―――はい」


そう、小さな声が返って来る。



「もし、今そのお金を払ってくれないなら。
弁護士の先生に相談して、あなたを訴える事になります。
そしたら、あなたの職場にも親にも、不倫が知られるだろうし。
慰謝料も、100万で済まないかもしれない」


この人の親はどうかは知らないけど。


教師だという固い職に就いてる彼女。


絶対に、職場に不倫なんて知られたら困るだろう。


「わ、分かりました!
ちょっと待ってて下さい!」


そう言って、近藤日和さんは一度この喫茶店から出て行き、暫くして、戻って来た。


その手には、厚みのある封筒を二つ持っている。


その二つの封筒は、違う銀行名が書かれている。


キャッシュカードの上限設定が、50万だったのか。


私はその封筒二つ。


計100万円を、受け取った。



「もう、帰ってくれてけっこうですよ?」


私がそう言うと、近藤日和さんは逃げるように喫茶店から出て行った。