「……兄が妹の心配をしてはいけないのか」
 問い返され、シャーリィは返す言葉を()くした。

 (だま)ったままのシャーリィにそっと吐息し、ウィレスは立ち去る。

「……どうなさったのですか。最近、王太子殿下に対する態度が変わられたようですが」
「何でもないの。ただの反抗期よ」

 兄の想いを知って以来、シャーリィはウィレスと今まで通りに接することができなくなっていた。
 兄のふとした仕草(しぐさ)気遣(きづか)いの一つ一つに、自分に対する想いを読み取ってしまう。

 そのたびに、鼓動(こどう)が高鳴り、平静でいられなくなるのだ。
 そんな自分を(かく)そうとすると、つい()()無い態度、冷たい言い方になってしまう。
 
 最初のうちは、必死に『今まで通り』の態度を取り戻そうとした。
 だが、そのうち、このままでいいのだと思い直した。
 ウィレスがシャーリィに幻滅(げんめつ)し、恋心が()めるなら、それが一番良いのだと……。
 
 しかし、どんなに冷たい態度を取っても、冷たい言葉をぶつけても、ウィレスの態度は変わらない。
 気まぐれな妹に溜息(ためいき)はついても、変わらずシャーリィを気遣(きづか)い、言葉をかけてくれる。

(どうして?こんなワガママな妹、もう見放してしまってよ。今までも散々(さんざん)、お兄様を困らせてきたじゃない。これ以上、私を気にかけないで。優しくしないで。じゃないと、私……)

 そこまで考え、シャーリィはふるりと身を震わせた。
(『じゃないと、私……』何?さっき、私は何を考えようとしていたの?)