「……姫様、どうかなさったのですか?先ほどから、あちらの方角ばかり気にされてらっしゃいますよね」
 アーベントに問われ、シャーリィははっと我に返った。

 いつもの、授業と授業の合間(あいま)休憩(きゅうけい)時間。
 シャーリィはアーベントの話にも上の空で、ウィレスのいる執務室(しつむしつ)の方ばかりを気にしていた。

「え!? いえ、何でもないの。ごめんなさい、アーベント」
「私は(かま)いませんが。あちらの方角に、何かあるのですか……と、あれは王太子殿下?」

 シャーリィの見つめていた方角に目をやり、アーベントが声を上げる。そこには、ちょうど廊下(ろうか)を歩いてくるウィレスの姿があった。
 シャーリィの心臓が、どきりと()ねる。

「シャーリィ。今は休憩中なのか?確か、予定ではあと三十分は授業があったはずでは……」
「お兄様には、関係のないことでしょう!」
 ウィレスの言い終わるのを待たず、シャーリィは声を荒げる。

「だいたい、どうしてお兄様が、そんなに私の予定に(くわ)しいの?私のことを気にする(ひま)があるなら、自分のことを心配すればいいじゃない。お父様のお仕事を代行しているせいで、授業が少しも進んでいないのでしょう!? 」

 ウィレスが妹の予定や授業の進み具合を完璧に把握(はあく)していることに、シャーリィは今まで何の疑問も抱かずにいた。
 だが、ただでさえ多忙(たぼう)なウィレスが、単なる気まぐれで、一日に六つも七つも授業の組まれた妹の予定まで覚えていられるはずがない。

 それだけ、いつも気にかけられているのだと、思い知るにつけシャーリィは苦しくなる。