「こんな所って、王女が王宮を歩いていて何がいけないの?」
(とも)の一人も付けていないのが問題なのだ。お前、自分の立場を忘れたのか?だいたい、クローゼはどうした。護衛騎士が王女のそばに付いておらんなど……」

「ああ、リアンのせいじゃないのよ。ヴァイサーヴァルド伯爵があまりにしつこく観劇に誘ってくるものだから、リアンにお願いして宮殿の外まで送らせたの。もうそろそろ戻って来るはずよ」
「『送らせた』でなく『追い払った』の間違(まちが)いだろう。まあ、それはともかくとして……王女の元を離れるのに、他の親衛隊員に引継(ひきつ)ぎもせずに出て行ったというのは、やはり問題がある。戻ってきたら一言、言っておかねばならんな」

「私がいいって言ったのよ。だいたいお兄様は大袈裟(おおげさ)過ぎるわ。私室の外ではずっと護衛騎士に付いて回られなきゃいけないなんて、息が()まるわよ」
「だからお前は、自覚が足りないと言うのだ」
 (しか)るような声音に、シャーリィは(ほお)をふくらませた。

「もうっ、せっかく久々に可愛い妹に会えたって言うのに、お小言ばかりなの?そんなことじゃ嫌いになってしまうわよ、お兄様」
「話を()らすな。大事なことだ」

「それよりお兄様、この時間にこんな所にいらっしゃるなんて、どうしたの?もしかしてお母様のお見舞いに?」
「だから、話を逸らすなと言っているだろうが……」

 そう言いつつも、ウィレスは(あきら)めたように小言を途切(とぎ)れさせる。
「まあ、母上の見舞いもあるが……父上が、母上のお部屋に()もりきりでな。私が代理をするにも限界があるから、連れ戻しに行くところだ。とうとう宰相(さいしょう)にも泣きつかれてしまったしな」

「まぁ……また(・・)、なの?」
「ああ。また(・・)なんだ」
 兄妹は同じ表情で顔を見合わせた。