その頃、会場の外を警備していたアーベントに近づく、一人の少女があった。

「ああ……。やっと見つけたわ」
 息を切らして駆け寄る少女に、アーベントは目を見開く。
「セラフィニエ!? 何故こんな所に!? 」

「あなたに会いに来てはいけなかったかしら?昼間はあまり、話ができなかったから」
 そう言って微笑むセラフィニエは、公爵令嬢にふさわしい豪奢(ごうしゃ)な夜会服に身を包んでいた。

 細かなプリーツを寄せた薄蒼の絹シフォンを幾重(いくえ)にも重ね、アクセントに真珠のラリエットを巻きつけたドレスは、海をイメージしたもの。水の宝玉の守護国ソフィステスで、かつて流行した型だ。

「そのドレス……ソフィーローズ様の?」
「ええ。お母様のものをお借りしたの。似合うでしょう?」

 セラフィニエの母親ソフィーローズは、ソフィステスの元第三王女という身分を持つ。

 元は両国の絆を深めるため、国王に縁談が持ち込まれたのだが、当の王はイーリスしか眼中になく、困り果てた重臣達は、やむなく七公爵家の中で最も彼女と歳の近かった、現シュタイナー公に白羽の矢を立てた。

 拒否権など無いに等しい、政略結婚。
 それでもシュタイナー公は、水の宝玉守りの血統を取り込むことで、少しでも宝玉姫の選定に有利な娘を、と微かな希望を抱いていた。

 だが、王家に女子が生まれたことでその希望も失われ、更には王室育ちで世間知らずな妻の散財に悩まされることとなってしまった。

 アーベントが屋敷にいた当時から、シュタイナー家は娘の衣装費用を捻出(ねんしゅつ)するのにも苦労するような有様だった。