数十分後。
 会場内には入れないアーベントと別れ、シャーリィがホールに入ると、仮面をつけた男女がわらわらと周囲に(むら)がってきた。

「シャルリーネ姫。今宵(こよい)は一際お美しい(よそお)いで……」
「王女殿下。そのイヤリング、とてもお似合いですわ」
 シャーリィは仮面の下で苦笑(にがわら)いした。

「あの、私をどなたと勘違い(・・・・・・・)されているのか存じませんが、お()(いただ)き、光栄ですわ」
 シャーリィの言葉に、皆、一瞬妙な顔をする。だがすぐに、納得(なっとく)したように(うなず)く。

「ああ、そうでした。今宵は仮面舞踏会。真実の名を口にするなど、無粋(ぶすい)なことでしたな。失礼致しました」
 そう言って笑う仮面の男女の正体が、シャーリィにはまるで分からない。

(ああ、もう。これだから、仮面舞踏会なんて嫌なのよ。仮面を付けていても、周りにはすぐに私だって分かってしまうのに、私には相手が誰なのか、さっぱり分からないんだもの)
 人の輪から何とか抜け出し、溜息(ためいき)をついたところで、後ろからぽんと肩を叩かれた。

「何だか元気が無いようですね。麗しき姫君」
「レグルス様……ですか?」
 ミレイニ人特有の金褐色の髪に、日に焼けた肌の色。
 リヒトシュライフェ人ばかりのこの場所では、いくら仮面で隠したところで、彼の正体はすぐに分かる。

「正解。よく分かったね、シャーリィ姫……と言っても、すぐ分かるか。お互い、特徴的な外見を持っていると損だね」