「どうしたの、シャーリィ姫。顔色が少し悪いようだけど。あ……もしかして、(つか)れているの?そうよね。今日はたくさんの方達が挨拶(あいさつ)に見えたはずだもの。無理はしないで。具合が悪いようなら、休んだ方がいいわ」
 セラフィニエは本気で心配そうに、シャーリィの顔を(のぞ)き込んでくる。

 彼女は昔から、よく気のつく優しい少女だった。だからシャーリィも、彼女にだけは気を許したのだ。
 彼女はずっと、シャーリィのひそかな(あこが)れだった。
 洗練された所作を持ち、大人びた美しさと優しさを()(そな)えた、まさにシャーリィの目指す理想を体現するかのような少女。

(……変わってないわ、セラ姉さま。優しくて、綺麗で……。昔から、ずっと思ってたのよね。セラ姉さまの方が、私なんかより、よほど光の宝玉姫に相応(ふさわ)しいのにって……)
 そこまで考え……シャーリィはある事実に気づき、愕然(がくぜん)とした。

(そうだわ。もし私がアーベントと一緒に逃げたとしたら……次の宝玉姫に選ばれるのは、セラ姉さまかもしれない)

 王家に女子がいない場合、次代の光の宝玉姫は、リヒトシュライフェ七公爵家の女子の中から、最も相応(ふさわ)しいと思われる者が選ばれる。

 年齢や教養、血筋なども重要な選考基準だが、最も重視されるのは、光の宝玉姫たるに相応(ふさわ)しい容姿。
 そして、シャーリィの見る限り、現在の七公爵家でセラフィニエ以上の美貌を持つ娘は存在しない。

「ねぇ、セラ姉さま。一つ()いてもいい?」
「え?何?突然改まって」

「セラ姉さまは……光の宝玉姫になってみたいって、思ったことはない?」
 唐突(とうとつ)な質問に、セラフィニエは瞳を(またた)かせた。しばらく考えるように沈黙した後、シャーリィに向けふわりと微笑みかける。

「……宝玉姫を()めたくなったの?シャーリィ姫」
 優しく問われ、シャーリィの心臓がどきっと()ねた。

「恋をしたのね、シャーリィ姫。どうしても叶えたい恋。だから『片恋姫』のジンクスが恐くなったのでしょう?」
 心を見抜いたかのようなその発言に、シャーリィはうろたえ、何も答えられない。

 沈黙を肯定(こうてい)と受け取ったのか、セラフィニエは微笑んだまま、ゆっくりと首を(たて)に振った。
「いいわ。私が引き受けても」
「え……っ?」

「私がそう言ったところで、どうにかなることではないかもしれないけれど……。それでも、可能なら私が()わってもいいわ」
「セラ姉さま……」