王妃の寝室は、落ち着いたオールドローズの色で統一されている。
 アーベントを廊下(ろうか)に残し入室したシャーリィは、母の寝台の(わき)に座る男の姿に、(あき)れた顔をした。

「お父様。相変(あいか)わらず、ここにいらっしゃるのですね」
「おお、シャーリィ。久しいな。ますます妃に似てきたではないか」
「ええ。お久しぶりです。お父様がずっとここに()もりきりなせいで、最近では滅多(めった)にお会いできませんでしたものね」

「お前まで、そのようなことを言うのか……っ。勘弁(かんべん)してくれ。昨日も宰相(さいしょう)に説教されたばかりだと言うのに」
 銀髪を()きむしり、大袈裟(おおげさ)(なげ)いてみせる国王の横で、くすくすと(やわ)らかな笑い声が響いた。

「娘にまで説教されるなんて、困った父親ですわね、陛下」
 そう言っておっとり微笑むのは、シャーリィによく似た面差(おもざ)しの、だがシャーリィとは違う、深い菫色(すみれいろ)の瞳を持つ女性。

 プラチナブロンドの髪を一本のゆるい三つ編みに結び、ネグリジェにガウンという姿で寝台の上に身を起こす、ひどく(はかな)げな印象のその人が、シャーリィの母であり、この国の王妃でもあるマリア・イーリスだった。

 そして、その寝台の横に座る、(よわい)四十を超えながらも(なお)、若かりし(ころ)の華やかな美貌の面影(おおかげ)を残した銀髪碧眼(ぎんぱつへきがん)の男が、リヒトシュライフェ国王ルーカス・エーデルシュテルン。