数日後、シャーリィはアーベントをお(とも)に連れ、渡り廊下を歩いていた。
 向かう先は月光宮(シュロス・モントリヒト)。光の宝玉姫が公務を行う場所であり、光の宝玉姫に(つか)える神官や神女(みこ)の住む場所でもある。
 だが、今日そこへ向かうのは公務のためではない。

「……ここが、竜使(りゅうし)()……」
 アーベントが、珍しく呆然としたような表情で立ち()くす。

 月光宮の一角にあるその部屋は、伝承の中に存在する『竜神の御使(みつか)い』を(まつ)るための部屋。
 リヒトシュライフェでは、古くからこの竜神の御使い『竜使(りゅうし)』に対する信仰が(さか)んで、その竜使に“よく似た姿を持つ生き物”を、大切にする風習がある。
 そして竜使の間は、その“竜使によく似た生き物”を飼育するための部屋でもある。すなわち……

「本当に、猫だらけなんですね」

 アーベントの視線の先には、絨毯(じゅうたん)の上に思い思いの格好(かっこう)でくつろぐ猫達の姿があった。
 その猫達を見守るように、部屋の中央に安置されているのは、背には翼、額には縦長の楕円形(だえんけい)をした赤い色石を()め込んだ猫の像。すなわち竜使の像だ。

 ここで飼育される猫達は、国の大切な祭や行事の際に、竜使の扮装(ふんそう)で登場し、儀式に花を()える。また、仕事に(つか)れた王宮の人間達の心を(いや)す役目も(にな)っているのだ。

「久しぶり!ジルーシャ、ジーナ、ジーニアス!相変(あいか)わらず可愛いわね」
 シャーリィが名を呼び手を広げると、気づいた猫達が声を上げ、我先にとシャーリィの元に()け寄ってきた。シャーリィはその一匹一匹の頭を()で、抱きしめる。

「まぁ、姫様。よくいらして下さいました」
 部屋の(すみ)で猫のブラッシングをしていた初老の女性が、立ち上がり、歩み寄って来る。

 竜使女官ミルト。この部屋で猫達の世話をするのが役目の特別女官だ。