『光の宝玉』――それは太古よりこの大陸に伝わる、竜神の力を秘めた九つの宝玉のうちの一つ。

 それぞれ異なる力を秘めるその九つの宝玉は、あるものは兵の力を倍増させ、あるものは土塊(つちくれ)金塊(きんかい)に変え、またあるものは持ち主に過去や未来を()る力を与える。

 人々はそれらの宝玉の(もと)に国を築き、(さか)えていった。
 そして九つの宝玉は、代々それぞれの国の高貴な姫君の手により守られてきた。

 宝玉を守護する運命を背負った、その姫君の名は『宝玉守(ほうぎょくも)りの姫』。
 そして、ここリヒトシュライフェ王国の宝玉守りの姫は、その守護する宝玉の名をとり『光の宝玉姫』あるいは『光の宝玉守り』などと呼ばれている。

 光の宝玉の秘める力は『魅了』。
 持つ者を美しく光り輝かせ、見る者を否応(いやおう)なしに()きつけるその魅力(ちから)は、時に敵国の将兵から侵略の意思を失わせ、国を救うほどの威力を持つ。
 
 だから、この国に生まれた少女であれば、誰もが一度は夢見、(うらや)むのだ。『私も光の宝玉姫になれたら……』と。
 だが、それと同じくらいの頻度(ひんど)(ささや)かれ続けた、まるで逆の言葉がこの国には存在する。
 
「そんなことを言って。あなた『片恋姫(かたこいひめ) 』になりたいの?」
 その言葉を聞いた途端(とたん)、後輩女官の口元が引きつった。
「え……っと、それはもちろん、嫌ですけど……」
 
 光の宝玉姫になってみたい。でも『片恋姫』になるのは嫌だから、やっぱりなりたくない。
 それがこの国の少女たちの、数十年、いや数百年の昔より変わらぬ口癖(くちぐせ)
 
 光の宝玉姫は、老若男女問わず数多(あまた)の人を()きつける。けれど、光の宝玉姫本人が一番に想う相手とは、決して結ばれることはない――必ずいつも最後には、片恋のまま終わる『片恋姫』。

 これは、いつの頃からか(ささや)かれ続けるジンクス。根拠(こんきょ)の無い、だが、初代から連綿(れんめん)と続く光の宝玉姫の系譜(けいふ)の中で、ただの一度も破られたことのないジンクスなのだ。