「そうね。私の理想は……まずは光の宝玉の魅力(ちから)(まど)わされない人。それから、私のことを理解してくれる人。それから……」
 
 ――大丈夫だ。俺が守るから。どんな敵からも、不幸からも、必ず俺が守るから。たとえ、お前が…………でも。だから、泣くな、シャーリィ。世界で一番可愛い、俺の……
 
 ふいに脳裏に(よみがえ)った優しい少年の声に、シャーリィははっと目を見開く。

(え……?そうなの?私の理想って……もしかして“お兄様みたいな人”なの?)

「どうかなさったのですか?」
 不思議そうに顔を(のぞ)き込まれ、シャーリィの心臓がどきりと()ねる。
「いいえ。何でもないわ」
 動揺を見抜(みぬ)かれぬよう、(あわ)てて首を横に振る。

(嫌だわ、この歳になって、まだ『お兄様大好き』なんて。周囲からヘンな目で見られてしまうじゃない)
 気持ちを落ち着かせるように、いつもの東屋(あずまや)に腰を下ろし、シャーリィはふっと深呼吸する。

 アーベントはいつものように、その近くに(ひか)えていたが……ふと何かに気づき、すっと指を動かした。
「ああ『貴婦人の耳飾り』が咲いてますね」
「え……?」
 アーベントは、東屋の近くの花鉢から一つの花を摘んでくる。その名の通り、優美なイヤリングのような形をしたその花は……

「ほら、これ。確かそんな名前でしょう?ああ、そうだ。それは二つ名の方で、正式名称は確か……釣浮草(フクスィエ)
「………………っ」
 差し出された花を、反射的に受け取ろうとして、だが、シャーリィの指先は(こご)えるように震えた。

 それはあの日、フローリアンから受け取れなかった花。あの日咲いていた花とは違う遅咲きの品種だが、確かに同じ釣浮草(フクスィエ)の花だった。